(もてぎ観戦記2002)----2002 FedEX Championship Series Round 3 Bridgestone POTENZA 500

 もてぎでCARTが開催されるようになってはや5回目、私にとっては3度目の観戦となった、CART-FedEXチャンピオンシップシリーズ。昨年は抜け出すことの出来ない出張のために無念の非観戦となっただけに2年間のブランクとなってしまったが、チャンプカーは期待を裏切らないサウンドを私に届けてくれた。

 2年前もそうだったが、もてぎでのレースは必ず天気が絡んで来る。今年も1週間前の予報では開催される3日間とも雨の予想で、行く前からやきもきさせられた。しかし、始まってみれば天気は回復、全てのスケジュールが予定通りにこなされた。1日目(25日)のプラクティスではブルーノ・ジャンケイラがベストタイムをたたき出した。

 本当は仕事を休んで見に行く予定だった予選、残念ながら仕事が片付かず行けなくなり未だ私は予選を見たことがない。その予選は、第1グループでパトリック・カーペンティアと高木虎之介が好タイムをマーク、上位に組み込む予感を見せたが、第2グループに入り、さらにそれを上回るタイム争いが展開される。26秒台前半を基本とする争いの中で、昨日のトップタイムを叩き出したジャンケイラがただ独り25秒台をマーク、トニー・カナーンがそれに続き、それぞれ1、2位でフロントローを獲得した。

 待ちに待った決勝日、予選を見れなかった私は、代わりにと朝のフリー走行を見るために朝5時から船橋の家を出発、もてぎまでの移動中ずっと寝っぱなしで9時ちょっと前に会場入りした。ついて早速始まったフリー走行は、ほとんど全ての車がピットとコースインを繰り返し調整に時間をかけている様子だった。というのも、この日は朝から多少雲はあるものの晴天となり、寒かった昨日とは一変していることで、セッティングをやり直す必要に迫られていたからなのであった。そんなわけで各チームとも十分な走行が出来なかったのだが、そのなかでも好調さを見せたのが前日2位のトニー・カナーン、そしてポール・トレイシーのホンダ勢。いよいよホンダがもてぎで勝利をあげる日が来るのかと期待を抱かせる結果となった。

 グッズを買い漁った(チーム・レイホール帽子、ホンダCARTTシャツ、SHELLTシャツ)のち、席に戻って本を読んでいるといつのまにやら眠ってしまっていたようで、目が醒めたら日本国歌の直前だった。このところ仕事が忙しかったせいで慢性的な寝不足に陥っていた所に当日朝早起きしたために我慢が効かなかったが、なんとかレース前に、と言うよりはアメリカ国家を聞く前に起きることが出来たのは幸いだった。その後セレモニーは順調に行われ、エンジンスタートのコール、今年の担当だったブリヂストン社長がためらいもなく「Gentlemen StartYour Engines」と言ってくれてすんなりと各車のエンジンが始動した。(実は今まで何かとつっかえていた)各車とも問題なくコースインし、パレードラップの後、グリーンフラッグが振られてレースが始まった。

 グリーンフラッグが振られると分かると、観客は一斉に席を立ち上がり、スタンディングでスタートを見つめる。ある意味盛り上げ上手で日本にもCARTがだいぶ浸透して来たことの現れと言えよう。レースは2番手スタートのカナーンが外からジャンケイラをパス、同じくパスしたトレイシーとともにレースを引っ張っていく。この2人の好調さは目を見張るものがあり、このまま走り切ればホンダの優勝は間違いないとまで思えるほどだった。

 私が注目していたのはジミー・バッサー(チーム・レイホール。レイホール帽子やシェルTシャツを買ったのはそこに理由があった)。しかしなかなか順位を上げられないなと思っていると、各車1回目のピットに向かおうとしてるのを見て目を話した隙に1コーナーのグリーンゾーン、煙りを吐いてとまっている車が。。。バッサーだった。よりによって応援しようと思った人がいきなりこけるとは。がっくり。

 リスタート後、高木選手が素晴らしいパフォーマンスを見せ5位まで順位を上げていた。もてぎらしいクリーンなレースが展開される中、高木選手は独り奮起して次々にパッシングを見せていたのだ。しかし、カーペンティアの青のマシンを前にして何度も接近するのだが抜けない。そうこうしている内に高木選手の背後に近づくオレンジの車。ルーキーのアメリカ人タウンセンド・ベルである。高木のミスを狙っていたベルは73周目、ついに高木を捕らえることに成功した。しかし高木選手も黙ってはいない。直後に訪れたピット作業で再び逆転、意地を見せた。

 この時点でトップ争いはトレイシー、ジャンケイラ、カナーン、ブラックの4人。しかし、2回目のピットストップを終えたトレイシーが、突然車体から火花を上げた。よく見てみるとリヤタイヤがパンクを起こしていた。すぐにピットに向かったが、ここでホイールが真っ二つに割れていることが判明、レースから脱落してしまった。それにつられるかのようにブラックが問題を抱えてピットインを繰り返して脱落。トップ争いはカナーンとジャンケイラの一騎討ちとなった。

 2回目のピットインはグリーンで行われた。ここで76周目にピットインした高木選手にハプニングが発生する。ピットアウトする際に、運悪く隣のピットのパピスの給油ホースを踏んでしまったのだ。これでペナルティーをとられた高木選手は2周遅れの14位まで後退してしまう。この日のマシンの出来が最高だっただけに悔やんでも悔やみ切れないペナルティーとなってしまった。

 ここから有力選手のリタイヤが相次ぐ。115周目にマイケル・アンドレッティが、121周目にはトップ争いをしていたトニー・カナーンがエンジンブローでリタイヤに追い込まれてしまった。カナーンのリタイヤはトレイシーを失っていたホンダにとっては大きな痛手になってしまう。これで順位はジャンケイラ、タグリアーニ、ベルの順となり、ホンダユーザーは1周遅れのフランキッティの5位が最高になってしまった。ホンダのもてぎ制覇の夢はほぼ断たれてしまった。

 137周目、それまで好調な走りを見せていたベルが第3ターンでバランスを崩しクラッシュ、コンクリートウォールの餌食となってしまった。ルーキーとしては生きの良い走りを見せていただけにもったいないクラッシュであった。このクラッシュの処理に手間取り、イエローが長くなっている間に、多くのマシンが1回ないし2回ピットインするなか、ぎりぎりまでピット作業を遅らせた中野選手がピットアウトした直後の1コーナー、中野選手のマシンからタイヤが外れ、コース上をタイヤが転がっていった。中野選手はホイールまでは傷めることなく、再びタイヤ交換の後レースに復帰するが、チームの作戦は失敗に終わってしまった。

 この中野選手のハプニングにより再びイエローとなり、ベルのクラッシュのイエローと合わせて実に20周ものイエローとなった。もてぎにしては珍しいことである。このイエロー明けから奮起したのは高木選手。2周遅れなので順位は上がらないが、よもやのことを考え、ただがむしゃらに前の車を抜く高木らしい攻めの走りが展開された。誰よりも速いスピードで前を塞ぐ車を次々パスすると、その時のリーダー、タグリアーニをも抜き去り、見かけ上のトップに立つ。その快走ぶりは観戦していた誰もが好感をもって見届けたことだろう。高木選手はその後、タグリアーニをパスしてトップに返り咲いたジャンケイラを背後にしても全く寄せつけず、トップ争いでもしているかのような好走を展開した。その後、期待されたイエローは出されることなく、レースは高木選手がトップのジャンケイラを従えたままチェッカーフラッグを迎え、ジャンケイラがオーバル初勝利、通算2勝目を挙げた。これにより、トヨタが日本での勝利をものにすることになり、フォードの連勝は4で止まった。

 我々に素晴らしい走りを見せてくれた高木選手は、結局もう1周走ったものの2周の遅れはいかんともしがたく8位に終わった。ペナルティーさえなければ表彰台すら狙えていただけのパフォーマンスを見せていただけに悔しい8位であったが、そのパフォーマンスに対する手ごたえは十分に感じ取っていた様子で、満足の表情を見せていたそうだ。一方、今大会中ずっとマシンのセッティングに悩み、最後までマシンが決まらないままの中野選手は、それでも最後まで走りきり、10位という結果を得た。まともに走れなかったということを考慮すれば、こちらは結果良しと言えよう。しかし、日本のファンにとっては、いよいよ日本人の表彰台、初勝利が近づきつつあることを感じずにはいられない週末となっただろう。

 結局同一周回はジャンケイラとタグリアーニの2人のみで、3位に入ったフランキッティは1周遅れ。ホンダはとうとうホームもてぎで勝利を飾ることの出来ぬまま、残り少ないレースを戦うこととなってしまった。一方喜びに満ちあふれているのはトヨタで、日本メーカーが日本で勝つことの意味を噛みしめていることだろう。完走は7周遅れのフィッティパルディを含めて12台と、終わってみればシビアなレースだった。

左:早々とリタイヤしたバッサー。中:今回はあまり目立つ所のなかったアンドレッティ。右:3位に入ったフランキッティ。

 展開の変化が頻繁に訪れたことと、いままでもてぎになかったイエローの多さ、そして高木選手の活躍があって、今年のもてぎはこれまでで最も素晴らしい面白いレースだったと評判が高い。事実私もそう思った。このレースが来年行われるかどうかが分からないというのは残念極まりない。ぜひ来年も日本でもてぎでオーバルで、CARTのレースが見られることを望まずにはいられない。その場で燃え尽きた私は、帰りの東京行きバスの中でも熟睡してしまった。。。

4月 27日 観戦。
5月 4、6日 記。

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