(もてぎ観戦記2000)----2000 FedEX Championship Series Round 5 Firestone FIREHAWK 500

 今年ももてぎにCARTがやってきた!日本で3年目となるFedEXチャンピオンシップシリーズはしかし、天気との戦いでもあった。天気がいいとされ、決勝日は特に晴れの特異日という縁起をかついだ5月開催だったが、初日(11日)のフリー走行こそ晴れたがあとは雨の予報に悩まされ、関係者は気を揉みながらのレースとなった。それでも、予選(12日)はかろうじて雨の降る前に行うことが出来、ジミー・バッサーが3位、ケニー・ブラックが2位、ファン・モントーヤがポールポジションを獲得した。ケニー・ブラックは前日のトップタイムを出しており、この日最後の出走となったが、予選開始直後にエンジンブローを起こすというアクシデントに見舞われながらもすばらしいタイムをたたき出した。

 私は今年から東京生活が始まったので、前回98年のように札幌から大金はたいて出向くという必要がなくなり、レース観戦にさほどの費用をかけることなく気軽にいけるようになった。とはいえ、船橋からもてぎまでの移動はけっこう時間がかかるため朝は普段よりも早く起きて出かけなければならず移動時間も3〜4時間の長丁場。帰ればすっかり疲れてしまうという状態。だから13日が雨で中止となった時には非常にガックリした。ただ、その反動か、14日にレースが終わった時にはこのうえない快感(もちろん感動も)を味わえた。

 さて、上記の通り週末の天気予報はちっともすぐれず、13日の出かけ際にも雨が降り始め、わざわざ早起きして(9時のフリー走行に間に合わせるため朝4時半の出発だった)自転車で駅に向かう私はいきなり水をさされる格好となった。朝7時半、宇都宮駅につくなり土砂降りの雨!すっかり元気も失せてしまったが、中止を決めるには早すぎる時間なので取りあえずもてぎに向かうことにした。朝9時半、もてぎは雨ではあったが宇都宮ほどではなく、少し希望が見え始めていた。98年に観戦したのと同じ場所のC席に向かう。コース内は何台もの車がひっきりなしに走っている。最初は分からなかったが、これらの車が走ることによりコースを乾かしていたのだ。その効果が実際に路面乾燥という形で見え始める。しかし時々肌をかすめる小粒の雨に一抹の不安を感じずにはいられなかった。いよいよ12時過ぎ、オフィシャルの努力のかいあって路面が完全に乾き、レースカーが走り始めた。15分ほど、フリー走行の時間が与えられ、各チームとも限られた時間の中で最適のセッティングを見つけだそうと懸命の走りをくり返していた。
セレモニーが始まった。いよいよ本気で今日レースを決行するようだ。しかし素人目に見ても雲行きは極めて怪しかった。全てのセレモニーが終わり、レースカーがグリッド順に並び、”Gentlemen, Start Your Engines!”のアナウンスを待つばかりとなった。しかしここで大粒の雨が...。せっかく乾かされた路面が一瞬にして濡れてしまった。その後も断続的に雨が降り、結局路面が乾くことのないまま午後3時、中止が決定された。ぞの途端、会場に訪れた6万人の観客の悲しみを代弁するかのごとく、激しいスコールがもてぎに打ちつけた。帰路の途中携帯で確認した明日の天気は曇りだの雨だの不安をあおることばかり。すっかり気分も落ち込んでしまった。

 それでも気を取り直して翌日、また朝早く出発した。宇都宮に近付くころには上空青空が広がりいい天気。昨日とは逆に一筋の期待を胸にもてぎへ向かう。もてぎはまだ厚い雲に覆われていたものの、路面は既に乾燥しており、徐々に晴れ間が広がって気温もぐんぐん上がり、いよいよ開催の時間が迫ってきた。そして昨日は聞くことの出来なかった”Gentlemen, Start Your Engines!”のかけ声とともにレースカーにエンジンがかかり、24台のマシンが隊列を組んでコースに旅立つ。私は今年は少し趣向を変えてE席に陣取ることにした。天気は心配ない。さあ、いよいよスタートだ!

 14日午前11時55分、待ちに待ったグリーンフラッグが振られ、レースが遂に開幕した。と同時に大外をかっ飛んでいく黒いマシンが..、アンドレッティである。ロケットスタートで8位から4位にジャンプアップし、さらに3位のバッサーに仕掛ける。次の周、バッサーをかわした後方で、オリオール・セルビアがクラッシュ。セルビアは前戦に続き開始早々に姿を消すことになり、あまりに勿体無い。このイエローは7周に渡って続き、ブランデルをはじめ下位スタートの4台がピットインした。この時点で順位はモントーヤ、ブラック、アンドレッティ、バッサーの順。

 9周目リスタート。ここでなかなかのパフォーマンスを見せたのがミチェル・ジョルディンJr.。一気に数台を抜き、中野の一つ上の14位にアップした。その後もしばらくその順位をキープし、ポテンシャルの高さも見せた。最初の周回遅れの出現は16周目、モントーヤが唯一のスウィフトシャーシを操るタルソ・マルケスをパスする。その後も調子の上がらない黒澤やペナルティを受けたルイス・ガルシアJr.らが次々にかわされる。周も進むと随所で周回遅れのパッシングシーンが見受けられるようになるとともに、逆に周回遅れが原因で順位の入れ替えが起こる場面も見えてきた。21周目、マルケスをパスしようとしたクリスチャン・フィッティパルディがタイミングを逸し、その隙をついてトニー・カナーンがフィッティパルディをパスする。

 中野は調子が上がらなかった。26周目にはクリスチァーノ・ダ・マッダとエイドリアン・フェルナンデスが中野をパスする。次の周にはダリオ・フランキッティが忍び寄ってきた。中野はここは抑えたが、フランキッティは詰め過ぎてしまい、同じチームのポール・トレイシーにかわされてしまう。中野はこのチーム・グリーンの2台の追撃を33周目のイエローまで持ちこたえる。しかしピットアウトしてみるとこの2台は中野の前にいた。36周の段階でモントーヤ、バッサー、アンドレッティ、ロベルト・モレノの順で、それまで2位を走っていたブラックはピットワークがもたつき大きく順位を下げた。その反対に、フェルナンデスが素晴らしいピットワークでジャンプアップした。

 39周目、グリーン。グージェルミンが遅れ、次々に抜かれていく。マシントラブルですぐリタイヤしてしまう。さらに、ヘリオ・カストロ・ネベスも調子が上がらない。43周目にはダ・マッダ、53周目にはマックス・パピス、トレイシー、フランキッティ、56周にはアレックス・タグリアーニ、57周目には中野がネベスをかわした。その中野だが、70周目にはモントーヤにパスされ周回遅れになってしまう。77周目にはトレイシーがパピスをパスする。このほかにも随所でバトルが見られた。その中でも激しい争いを繰り広げていたのが4位のモレノと5位のカナーン。カナーンはメルセデスエンジンユーザーで唯一奮闘しているが、かわすまでには至らない。このほかの争いも順位の逆転までには至らず、激しいながらも落ち着いたレースが続いた。

 80周目にまたイエローが出た。それにしても今日のイエローはちょうどピットストップのタイミングで出る。またしても大量のマシンがピットに入る。その姿は物凄いものがある。当然ピットは大混雑、出る時も我先にと機先を争う各ドライバー達。このピット後の順位はモントーヤ、バッサー、モレノ、アンドレッティ。少なくなったアメリカンドライバーのバッサーとアンドレッティが上位で頑張っている。地味ながら6位にミーモ・ギドリーが上がってきた。カーペンティアの代役ながら代役以上の活躍を見せている。

 85周目、グリーンになる。ここから順位の入れ代わりが激しくなる。まず、リスタートでアンドレッティがピットワークでかわされたモレノをパス。フランキッティもトレイシーをかわす。フランキッティはここから鬼気迫る追い上げを見せ、ブラック、ド・フェランもかわして8位まで上がる。また88周目にはカナーンがブラックをパスし、そのカナーンを92周目にギドリーがパスするなど、各所でパッシングシーンが展開された。これらの争いをしり目に独走を続けるモントーヤは一度もトップを譲ることなく、102周目に最多ラップリードの1ポイントの獲得を決めたあとも後方のバッサーとの差を広げていく。

 120周目、3回目のピットストップのタイミングが近付いてきたが今度はイエローは出ない。グリーン中のピットが展開される。まっ先に入ってきたのはジル・ド・フェラン。ペンスキーの100勝目の担い手として注目され続けているがここもてぎでは調子が上がらず、ピットで弾みをつける作戦か。それに続いてバッサーが入ってきた。ピットロードのスピード制限もあってゆっくりゆっくりピットロードの最前方にあるガナッシチームのピットに向かってくる姿からはとてもマシンに異常を抱えているようには見えなかった。ところがあっさり自分のピットスペースを通り越したバッサーはそのままガレージに向かっていってしまう。実は私の優勝予想はこのバッサーだっただけに残念であるとともに呆気無さが残った。一方モントーヤは132周目にピット作業に入った。ここで今日はじめてモントーヤ以外のドライバーが一時的ながらトップに立つこととなる。それは今日いまいち調子の上がらないフェルナンデスである。しかしそのフェルナンデスも135周目にはピットに入り、戻ってみると13位とポイント圏外にいた。

 140周の時点でトップはモントーヤ、以下アンドレッティ、フランキッティ、モレノ、フィッティパルディ、ダ・マッダ、カナーン、トレーシー、パピス、ブラック、ド・フェラン、ギドリー、フェルナンデスと続き、ここまでの13台が同一周回にいた。しかしモントーヤの走りは驚異的な速さで、145周目以降フェルナンデス、ギドリー、ド・フェラン、パピスを次々かわしていく。その一方で精彩のない日本勢、中野は160周過ぎにオーバーランしそうになりスローダウン、無情にも次々抜かれていく。黒澤はというと、一向にセッティングが決まらず、何度もピットインをくり返していたが163周目、遂にマシンを降りてしまった。

 167周目、タグリアーニがピットに入ってきた。最後のルーティンピットストップである。さらにフィッティパルディ、ド・フェランが続いた。この時はまだコースはグリーンである。ド・フェランがピットアウトしたその直後、バックストレートでブランデルのマシンが壁にヒット、スピンしてコース上にとまってしまいイエローとなる。これで青ざめたのは同一周回にいたフィッティパルディとド・フェラン。特にド・フェランは何度もこうしたピットタイミングのミスをくり返しており、またか!という印象を持たずにはいられなかった。さて当然この3台が残って周回するなか、各マシンが一斉にピットに入り、給油とタイヤ交換、あるいは給油のみでピットアウトする。ところがここで不可解な事件が起こる。一度入ったモントーヤがピットに戻ってきたのだ。これが本当の意味でのトップの座からの転落ということを観客も良く分かっていたらしく、ピットに向かうモントーヤの姿を確認すると一斉にどよめきが沸いた。天を仰ぐ人、諸手を挙げて沸き立つ人。とにかくこれでモントーヤが8位に後退し、トップにはついにマイケル・アンドレッティが立った。今日のマイケルは攻める所は攻め、抑える所は抑えるベテランと呼ぶに相応しいレースを展開、そして機は熟したという感じだった。2位以下はモレノ、フランキッティ、ダ・マッダと続き、モントーヤが落ちたことでダ・マッダがトヨタユーザー最高位になった。

 180周目のグリーン以降はモントーヤがどこまで追い上げられるかが見どころとなったが、結果的にはカナーンを抜いただけで7位でフィニッシュしている。グリーン後の走りを見る限り全くもって順調で、結果的にあのピットストップが勝負の分かれ目となってしまった。さて、レースはリスタート直後フランキッティがモレノをパス、アンドレッティの背中にピタリとつけるが追い抜くまでには至らない。183周目には健闘していたギドリーが戦列を離脱、コース上は17台まで減少した。いたって順調にトップを快走するアンドレッティが191周目の第4ターンに差し掛かったところで白煙に包まれた。カナーンのメルセデスエンジンが音をあげてしまった。ここでイエロー。イエローのまま終わるのかという心配がでてきた。

 それでも197周、なんとかリスタートがきられた。この時点で中野はあと一歩で得点の13位にいたが、途中のスローダウンが痛手となって12位のジョルディンJr.とは大きな差があった。しかも後ろからネベスに抜かれ最終結果は14位だった。トップ争いはリスタートでミスしたフランキッティは後ろから狙っていたモレノを抑えるので精一杯。そして201周を走りきりアンドレッティが約1年ぶり通算39回目の優勝を飾った。

 2位フランキッティ、3位モレノとともにコース上をパレードするアンドレッティ。前日の悲惨さ(車が壊れてレースに参加できる状態でなかった)が一転、優勝というこのうえない結果が転がり込んできて喜びもひとしおだったろう。そして、フェルナンデスに次ぐ2人目のもてぎウイナーがマイケルということで、もてぎはやはりまぐれ当たりでは勝てないんだなあというのも私の感想として残った。

 レース開始直前から日ざしが出てきて暑いなかでの観戦となったが、今回も十分満足の行くレースを見せてくれた各ドライバー、チームに感謝したい。帰路、常磐線の車中で雷鳴と豪雨を聞き、あらためて開催できて良かったと思う次第であった。

5月 13、14日 観戦。
5月 22日  記。

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